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山口地方裁判所 昭和42年(わ)46号 決定 1971年12月01日

主文

本件訴因・罰条の変更はこれを許可しない。

理由

一、現在の訴因(以下単に「現訴因」と謂う)は、昭和四二年三月一〇日付起訴状の中「公訴事実」欄記載(但し同「第二」以外を除く)、および同年八月二九日付訴因変更請求書記載のとおりであり、本件変更請求された訴因(以下単に「新訴因」と謂う)は昭和四六年九月一七日付訴因・罰条変更請求書記載のとおりであるからここにこれを引用する。

二、そこで本件について、現・新両訴因間の公訴事実の同一性の有無につき考察することとする。

現訴因の要旨は、「被告人は自分個人の昭和三八・三九両年中の各所得につき、その一部を秘匿(第一事実については不申告、第二事実については虚偽過少申告書を提出)して所得税を免れた」というのであり、一方新訴因の要旨は、「被告人が北辰商品株式会社の機関である代表者として、昭和三八年七月一日から昭和三九年六月三〇日までの同会社の所得につき、一部を秘匿(虚偽過少申告書を提出)して同会社の法人税を逋脱した」というのであって、両訴因とも被告人の行ったある経済活動による利益につき租税を不正に免れたことに対する被告人個人の刑事責任を追求するものである点においては同一であるが、前者は被告人個人の経済活動による所得につき所得税を脱税したことに対する個人としての被告人の刑事責任を問うものであるのに対し、後者は北辰商品株式会社の経済活動による同会社の所得につき、不正に法人税を免れたことに対する同会社の代表者としての刑事責任を求めるものであり、公訴事実の同一性を認めることはできないと解すべきである。すなわち個人としての被告人と法人の代表者としての被告人という行為主体が異っている外本件において被告人個人の経済活動とそれによる所得と法人の経済活動とその所得とは仮にその一部が被告人の行動とそれによる利益という点で同一であっても法律上は勿論社会生活上も明確に区別されているうえ、本件における現・新両訴因を見るに、前述のとおり、所得税法または法人税法によって課せられた所定の各税額を正当に申告しないことによって右各税を免れたとするものであって、いずれも不作為による犯行であり、右各作為義務である正当な税額の申告および納税の義務は、右各税法によって初めて且つ別個独立に生ずるものであって(租税法定主義)、右各租税法を離れて単に租税を申告し納税すべき義務はなく、租税の申告および納付の義務を履行しなかったという抽象的な共通点をとらえて基本的事実関係が同一であるということはできない。

従って、検察官の本件訴因・罰条変更請求は、公訴事実の同一性を害するので、これを許可しないこととする。

よって主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 野曽原秀尚 裁判官 猪瀬俊雄 小熊桂)

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